AYUMI ARCHITECTS AND DESIGN

木々の癒しと成長
効率・安全・拡張性を

木々が芽吹き成長し、やがて森になる。
木々に癒される人々。
その成長と癒しを掘り下げ空間デザインへ昇華させた森林浴のような空間。
視線が行きわたる平面計画を重視し、サプライエリアを中央にレイアウトすることで動線を複数確保し、効率的で安全な医療を提供できるよう配慮しました。
将来増築を考慮し、医院自身が街とともに成長できるよう期待を込めて設計に織り込みました。

STORY

患者さまとスタッフの笑顔あふれる、
機能的であたたかな空間

岩見沢市で市民のお口の健康を守り、「みんなが笑顔になれる歯科医院」として80年以上の歴史を重ねる本間歯科医院。アユミ建築設計では、2017年の移転新築と3年後の増築を担当し、お付き合いを続けています。 移転新築後、ますます多くの患者さまのお口の健康を守っている本間歯科医院の理事長・本間啓史さんとアユミ建築設計の伊東祐一が、患者さまとスタッフを思った歯科医院づくりのプロセスについて語りました。

本間 啓史(ほんま けいし)

本間歯科医院 理事長・副院長・歯学博士

岩見沢市出身、北海道医療大学歯学部卒業、北海道大学大学院歯学研究科博士課程修了。1934年に祖父が開院し、父が院長を務める本間歯科医院の副院長として2013年から勤務。2017年に現在の位置に移転開院。

HISTORY
2016.06.17
顔合わせ
2017.01.04
設計完了
2017.02.22
地鎮祭
2017.04.25
上棟式(餅撒き)
2017.07.03
移転開業
2019.09.21
増築計画開始
2020.07.07
増築着工
2020.09.30
増築完成
未来の歯科医療を見据えて移転新築
理事長の本間啓史さん
歯科医院を移転新築された経緯についてお聞かせください。

本間啓史(以下、本間):大学院を修了し、父が診療している本間歯科医院に2013年から勤め始めましたが、当時の建物は築42年で老朽化が進んでおり、患者さまも父と同年代の方が中心でした。また、岩見沢は人口の割に歯科医院が多い地域ですが、多くの歯科医師が高齢化しています。そこで将来的に幅広い年代の患者さまを多く受け入れられるようにするべきだと考え、移転新築を目指すことにしました。
まずはソフト面の改革からと、3年間は手作りでキッズスペースを作ったり、SNSや院内新聞でのPRを重ね、徐々に患者さまが増えてきたのでいよいよ移転新築に踏み切り、設計士さんを探す段階にきました。
知人からの紹介などで4名の方に提案をお願いし、その中の1人が伊東さんです。伊東さんは、歯科の医療機械を扱う石田歯科商会の泉さんからの紹介で知り合いました。私の大学の先輩が砂川市で親子継承をして順調に医院を大きくし、その増築に伊東さんが携わっていたというご縁もありました。

伊東祐一(以下、伊東):ちょうど砂川でその先輩の医院の工事をしていて、泉さんから「岩見沢に紹介したい先生がいるから」と帰りに連れてこられたんですよね(笑)。
その足で啓史先生と面談し、手書きで書かれた20項目の要望もいただき、プランを提案させていただきました。

本間:提案をいただいた方の中でも、伊東さんは人として話しやすく、私たちの意見を尊重してくれ、これから長いお付き合いをしていける方だと思ったのが決め手となり、お願いすることにしました。
私は患者さまとお話をする中で、わからないことは気軽に尋ねてもらえるように心掛けていますが、同じように伊東さんには建築の専門的な話も聞きやすいと思えたのも良かったですね。

家族それぞれの思いを乗せて設計
当社代表 伊東祐一
打合せはどのように進められましたか。

伊東:約半年にわたり、2週間に1回のペースで診療後にお邪魔していました。
ちょうど銀行に提出するプレゼン資料を見せていただけたので、医院のコンセプトや啓史先生の考え方もそこから深く知ることができました。これから地域の歯科医療を支えていくという使命感や、スタッフが働きやすいようにという配慮が伝わってきました。
打合せには、協力会社である石田歯科商会さんや、啓史先生のご家族も関わってくださっていました。

本間:医院の経理や事務を長く担当してきた母も、毎回打合せに出席していました。妻は内装に関して、「治療椅子の前に窓があると、不安な治療も空を見上げてリラックスできるかも」「キッズスペースは待合室よりあたたかくナチュラルな雰囲気だと、アットホーム感があって良いと思う」など、患者さま目線で意見を出してくれました。
院長の父は、これから医院を受け継ぐ私に全面的に任せてくれていましたが、母を通じて「こんなに大きな建物にして大丈夫なのか」など心配していると聞きました。そこで、一度伊東さんに、父に説明してもらう時間を設けたんですよね。

伊東:啓史先生を信頼して任せていたものの、親心から心配されていたようだったので、設計士の立場から建築する上での考えや根拠について説明し、熟慮の上ご理解いただけました。その上、雪が多い岩見沢の冬の対策なども長年の実体験からアドバイスしていただき、設計に反映させていただきました。

本間:父は私の意見を尊重してくれていて、今の医療や治療方針なども大きく理解してくれています。そこに感謝して今後も祖父や父のように、長きにわたって地域の皆さんのお口の健康を守れる歯科医院でありたいと思っています。

一番重要な要望は、「温度計」!?
通りから目印になる温度計付きの看板
新しい医院を建てる上で、本間先生のご要望やポイントとなる部分をお聞かせください。

伊東:一番の要望は、「外に温度計をつける」ことだったんですよね。

本間:昔から、近所にある空知信用金庫と岩見沢神社に温度計があり、「今日は岩見沢神社の温度計で○度だったね」とたびたび話題に上っていました。今は医師をしている兄と、中学生か高校生の時に話し合い「まちの中にある温度計は市民の皆さんの目にとまるので、歯科医院に温度計を付ければこの地域のシンボルになる」という結論になりました。父に進言しましたが断られ、いつか自分が医院を建てる時には付けようと思っていたんです。

伊東:地域の皆さんの通り掛かりに目に留まり、歯科医院に来る際の目印にもなるという使命を持っていたので、設置する場所や見えやすい角度などもこだわって今の形になりました。移転新築から2年経ち増築の際に市役所に相談に行き、「温度計の付いている歯科医院で…」と言ったら「ああ、あそこね!」とすぐにわかってもらえました。

本間:患者さまも寒い日や暑い日に「今日は○度だったよ」と話題にしてくれていますし、当初の目的は果たせたと満足しています。

さりげなく全体が見渡せる目線の工夫
患者さんの動線上にあるドクタースペースの前で

本間:歯科医師がカルテ記入などを行うドクタースペースを患者さまの通り道に置くことも、大きな要望の一つでした。
通常は、歯科医師のカルテ記入スペースは壁側にあって、患者さまに背を向けている医院が大半です。当院では、患者さまが治療を終えて帰る時の表情を見て「辛くないかな」と確認したり、「お疲れ様でした」と声を掛けられるよう、お互いに顔が見える場所にしてもらいました。

受付の奥はドクタースペース。小窓を通してサプライエリアも見える

伊東:そういったアイデアも、患者さま本位で考える啓史先生ならではの視点ですね。
ご要望を受け、ドクタースペースは患者さまが待合室から治療スペースに移動する動線上に置くとともに、機能性を考えてホテルのフロントと事務所のように、受付とつなげる配置にしました。
この受付とドクタースペースが医院の心臓部で、サプライエリアも壁で仕切ってはいますが小窓から様子が見えるようになっています。

本間:ドクタースペースを中心に内部全体が見渡せるため、スタッフが忙しさやトラブルが起きているなど状況が把握でき、この造りは本当に機能的だと思います。

成長する「木」になぞらえた、あたたかな空間
治療椅子に患者さんが座った時に、窓から空が見えるような工夫を施す

本間:これも歯科医院としては珍しいのですが、スタッフが書き物をしたりちょっとお茶を飲んで休憩できる、DH(歯科衛生士)ステーションも作ってもらいました。ハイテーブルと椅子を置いたカフェ風の空間になり、ほっと一息つける場所になっています。
治療スペースは全体に目が行き届くよう、個室にはせず壁で仕切って並ばせる形にしました。治療椅子に患者さまが座った時に、窓から空が見えるようにするという妻のアイデアを、最適な形で実現していただけました。

伊東:患者さまが座った時の目線を考え、高い位置に窓を付けて外を眺められるようにし、少しでも治療中のストレスを減らせるようになっています。
内装のデザインは、移転新築の際に新たに作られたロゴマークからインスピレーションを得て、発想を膨らませていきました。

本間:ロゴマークは今までなかったのですが、移転新築に合わせて作ろうということになりました。祖父の時代から80年以上、3代にわたりまちの歯医者として親しんでいただき、これからも地域と共に成長していくという思いを木のモチーフに込めました。カラフルな色合いは、地域の人それぞれの色がありみんなが集まる木にするという意味合いです。

待合室は患者さまの癒やしの空間に

伊東:そこで、内装のイメージカラーを緑にし、微妙な色合いは奥様と打合せを重ねて決めました。院内の随所に木を使い、温かさと癒やしを表現しています。待合室の椅子を赤と白にしたのは、ロゴマークのカラフルな部分とシンクロしています。
岩見沢の厳しい冬にも温かい雰囲気を保つため、待合室はガラス張りにして外に大きな庇を付け、雨や雪が直接窓に打ち付けない作りにしています。

完成後も小さな進化を繰り返し、2年で増築へ
待合室の大きな窓は、外からも温かい雰囲気が伝わる
実際に完成した医院を使ってみて、いかがでしたか

本間:私たちの要望から着想して、患者さまにとって居心地が良くスタッフも働きやすい医院になり、とても満足しています。使ってみて新しく要望が出てきたら、LINEで伊東さんに連絡して対応してもらっています。

伊東:啓史先生は歯科医院のあり方について常に勉強されているので、進化するたびに新しいアイデアをいただき、小さなリニューアルをしています。例えば物販のコーナーは最初は小さかったのですが、徐々に「こういったものも扱いたい」と増えていき、今では二つのコーナーに分けて棚を増やして対応しています。
当初から、医院の成長を考え5年後に増築できるようにと考えた設計になっていましたが、予想より早く2年後に増築のお話をいただきましたね。

お口のケアに関するアイテムが見やすく並んだ物販コーナー

本間:ユニットを5台置けるようにしましたが、すぐにたくさんの患者さまに来院いただけるようになり、予備のスペースを使って6台目を入れることに。そして、その後も患者さまが増えたので、増築を進めることにしました。
ユニットは8台になり、奥の2台のスペースは色合いと雰囲気を変え、メンテナンス用のコーナーにしています。現在は歯科診療も予防が重視されるようになっているので、当院でも3カ月に1回のメンテナンスをおすすめし、虫歯や歯周病を軽いうちに発見して治せるようにしています。予防歯科の考えは患者さまにも徐々に浸透してきていますね。

落ち着いた色合いのメンテナンスコーナー

伊東:増築に伴って、技工室の場所を移動すると共に、歯科技工士さんのご意見をもとに、右利きの技工士さんに合わせて窓からの光が左からも当たる配置に変更しました。
それにしても、移転新築前から考えるとかなり患者さまが増えていますよね。

本間:ありがたいことに以前と比べると、移転新築後、そして増築後とますます患者さまが増えています。スタッフもパートさんを含め全員で25人ほどの大所帯になり、8台のユニットをフル活用して診療に当たっています。
これも伊東さんのお陰で、1人でも多くの市民のみなさんのお口の健康を守ることができ、歯科医師冥利に尽きます。

お互いの成長を支えるパートナーとして
共に医院づくりを進めた石田歯科商会の泉さん(左)、佐川さん(右)も交えて
移転新築から増築へ、振り返ってみていかがですか。

本間:伊東さんに設計してもらったことで、建物が良いから来てくれる患者さまも多いと思います。医院も順調に成長できていますし、地域の方々のお口の健康も守ることができ、お願いして本当に良かったと思います。
今後、後輩が医院を開業する時などに参考に見に来てくれたら良いと思いますし、私たちも増築や新築をする時は伊東さんにお願いしたいと思います。またお力を借りる機会を作るため、日々患者さまと医院、自分のために頑張っていきたいと思います。
伊東さんは年齢も近いので、いつも気楽に話ができます。医院の建築や運営に協力してくれている石田歯科商会の泉さんや佐川さんも交えて交流し、刺激をいただいてきました。今後も定期的にお食事などしながら、いろいろなことを話したいですね。

伊東:建物の完成は終わりではなく一つの節目で、そこからもお施主さんと長く関わり続けたいと常に思っています。小さな相談事も気軽に伝えていただけることで、新たな発見もありますし、自分の知識や経験にもなるのでありがたく思っています。
本間歯科医院の発展に携われたことは大きな財産ですし、これからも末長く啓史先生を応援し続けたいと思います。
経営者として、異業種の情報交換ができるのも刺激的で楽しいです。仕事以外にも幅広くお話できる関係を続けていきたいですね!

本間歯科医院
北海道岩見沢市7条西11丁目1-21
TEL 0126-22-1192
https://honma-k-dental.com
  • 文:細川美香(合同会社ハーヴェスト)
  • 写真:寺島博美(コトハ写)