AYUMI ARCHITECTS AND DESIGN

異質なものを一つの空間へ
傑出と融合の先に生まれる価値

宿泊施設に求める非日常感と高級感、
マンションに求める日常の安心感。
それを一つの空間で表現することで、
新しい価値が生まれました。
この先進的なインスピレーションに
基づくコンセプト。
ラグジュアリー感と居心地の良さが
同居するデザイン性。
宿泊施設とマンションの構造を同一の
建物で成立させる設計技術。
3人の異なる個性が際立ち融けあい、
さらに進化を続けています。

STORY

“高級民泊+賃貸マンション”という、
新しい価値をゼロから生み出す。

投資用賃貸マンションの企画を行う不動産会社、株式会社エフエーの天内和幸社長の発案により発足した、Citson Gardenのプロジェクト。アジア圏を中心とする外国人を対象としたワンフロア貸しの高級民泊と、賃貸住宅が一体となったこれまでにない施設です。4棟がすでに稼働し、5棟目の建築が進んでおり、これからも続々と建設が予定されています。
これを実現させたのは、アユミ建築設計代表の伊東祐一が全体の設計を担当し、同じく一級建築士の五十嵐雄祐さんがデザインとブランディングを担当するという異色のコラボでした。
Citson Gardenが生み出されたプロセスやその魅力について、3人の対談で語っていただきました。

天内 和幸(あまない かずゆき)

株式会社エフエー 代表取締役
株式会社トゥーハウンズ代表取締役
技術士・宅地建物取引士

留萌市出身、北見工業大学工学部卒業。橋梁設計を専門とする技術士として建設コンサルタント会社に18年勤務。2013年に不動産会社である株式会社エフエーに転職、2018年代表取締役に就任。不動産業に従事する傍ら2016年にはゴルフアパレル事業として、Russeluno SAPPOROを札幌市内にオープン。 現在は、賃貸マンションと高級民泊を組み合わせたCitson Gardenプロジェクトを推進。

五十嵐 雄祐(いがらし ゆうすけ)

株式会社グリーンライトアソシエイツ 代表取締役

札幌市出身、北海道東海大学芸術工学部卒業。東京・札幌の建築設計事務所で約10年勤務を経て、2011年に「五十嵐ユースケ設計室」設立。2016年に法人化し「株式会社グリーンライトアソシエイツ」に改称。北海道を中心に設計活動を行う傍ら、北海道のアートシーンのバックアップを行う企画ユニット「P∞ARTNER(パートナー)」を共同主催。札幌市立大学、東海大学、北海道芸術デザイン専門学校非常勤講師。
第1回JCD北海道デザインアワード 優秀賞
第2回JCD北海道デザインアワード 審査員特別賞

HISTORY
2019.07.12
コラボ結成
2019.10.17
Elbivue設計完了
2020.04.15
Dimaryp/Egnorts設計完了
2020.06.15
Laventos設計完了
2020.10.26
Elbivueオープン
2021.05.21
Dimaryp/Egnortsオープン
2021.06.14
Laventosオープン
新しい価値を生み出すためのコラボレーション
株式会社エフエー 代表取締役 天内和幸さん
Citson Gardenのプロジェクトが発足した経緯についてお聞かせください。

天内和幸(以下、天内):「賃貸マンションの低階層に宿泊施設を入れる」という、これまでにないことにチャレンジしてみようと思ったことが始まりです。
宿泊施設のコンセプトは、海外からの旅行者に満足していただけるワンフロア貸し切りの高級民泊です。北海道にも海外、特にアジア圏からの旅行者が大変多く訪れていますが、彼らの旅行文化をリサーチした結果、家族や親族など10人規模のグループを組んで旅行をするということがわかっています。
そのような大きなグループが、気兼ねなく一つの部屋で寛げるようなスペースがあり、パーソナルスペースも確保されていてストレスなく泊まれる宿泊施設はこれまでありませんでしたので、海外の旅行者に支持される新しい宿泊施設の流れを作れると考えました。

このプロジェクトに声を掛けたお二人については、伊東さんはアユミ建築設計を設立される前の会社員時代から設計をお願いしており、一つ一つ誠実に取り組んでくれるところと、設計の腕の確かさから、信頼して独立されてからも賃貸マンションの設計をずっとお願いしていました。
五十嵐さんはゴルフのレッスンで知り合い、私が経営しているゴルフアパレルショップの店舗設計をお願いしたのが仕事としての始まりでした。職人的なアーティスティックな感じがありつつ、私の希望や好みを反映させてくれて、非常に良いものができました。
Citson Gardenは、賃貸マンションとして投資家に向けて企画提案する部分と、民泊のデザインやしつらえを追求する部分があり、全体の設計は伊東さん、民泊のデザイン部分は五十嵐さんと、それぞれの得意分野で力を発揮してもらえたら…と考えたのが経緯です。
お二人とも設計士として力があるので、それぞれ単独でもできるのですが、一緒に関わってもらえれば理想とするものができるのでは、と考えたことから、このような形が生まれました。

既存の枠組みを超えるプロセスから生まれる提案
アートが映えるスタイリッシュなダイニング
企画の発案から設計、施工まで、どのような流れで進んでいきましたか。

天内:建物全体とマンション部分の設計に関しては、伊東さんに概要をお話してラフプランを出していただき、費用面や賃貸・民泊の収益を計算し、問題ないと判断できた段階で詳細な設計を進めていただきました。
そして、民泊のデザインは私がこのようなものにしたい、というイメージを五十嵐さんに伝え、壁紙や床の色味、材料、家具、などを具体的に提案してもらっています。それを伊東さんが図面に起こし、造りを決めていくという流れでした。

当社代表 伊東祐一

伊東祐一(以下、伊東):マンションなら間取りや敷地の条件からどのようにパフォーマンスを出していくかなど大枠から入っていきますが、宿泊施設は欲しいスペースや寸法、テーブルやコート掛けをここに置いて…などミニマムなところからふくらませ、3人でやりとりを繰り返しながら探っていくプロセスを踏みました。
また、マンション規模の建物を造る際は、金太郎飴のように基本はどのフロアも同じ形にするのが通常の形です。しかし、Citson Gardenの場合は低層階の宿泊施設に大人数が集えるスペースを入れたり、全員が不自由なく使えるお風呂・トイレの数を確保してその配置、配管を考えるなどしながら、上層階のマンションと合わせて一つの建物として成立させる必要があります。
こういった前例は全くないのでとても難しく、検討を繰り返しながら非常に悩み、図面もたくさん書きました。

株式会社グリーンライトアソシエイツ 五十嵐雄祐さん

五十嵐雄祐(以下、五十嵐):もともとなかったことへのチャレンジであり、建物の収益に沿って予算の範囲内でどう作っていくかという難しさもありました。
完成形のイメージが最初から明確にあったわけではないので、3人のやりとりで小さなトライアンドエラーを繰り返しながら、ブランディングに時間をかけました。そこで検討する時間をしっかりかけたことが、良い結果につながったと思います。

非日常感と快適性が同居するオンリーワンの空間
大人数の宿泊客が集って寛ぐことをイメージしたリビング
Citson Gardenの建物のポイントとなる部分についてお聞かせください。

天内:宿泊施設としてはラグジュアリーさを出すと共に、せっかくの旅行なので非日常感を出したいところです。同時に賃貸マンションとして安心して住めるように日常の落ち着きも必要ですので、そこのバランスを程よい形に持ってくることを意識しました。
民泊の部分では、先ほど伊東さんからもありましたが、大人数にも対応できるお風呂やトイレの数を確保するなど、快適に使ってもらえることも重視しました。
海外の旅行者は外食も楽しみますが、スーパーで買い物をして自分たちの国の料理を作るということもリサーチでわかっていたので、キッチンの設備もそれに対応できる十分なものにしています。

旅行中にも料理ができるよう設備をそろえたキッチン

五十嵐:民泊部分の非日常感は、材料の使い方や組み合わせで演出していきました。ゲストは北海道を選んで来ていることを考え、北海道らしさも意識しました。と言っても、雪の結晶など「いかにも」というものではなく、天内さんがプロデュースする格好いい空間に北海道らしさを出しながら、いかにオンリーワンを作るかに注力しました。
例えば、リビングの壁に北海道らしいモチーフをしつらえたり、ランプシェードに作家にオーダーしたテキスタイルを活用するなど、他にはないものが出来上がったと思います。
寝室も居心地の良さを追求しつつ、北海道の作家のアートを飾るスペースを作り、そこでも特別感を味わえるようにしています。

ラグジュアリーな中に北海道らしさを散りばめた空間

伊東:設計面では、ゲストはここで外の景色を楽しむのではなく家族と一緒にゆったりと過ごしてもらうということを考え、居住空間を丁寧に作り込みました。
団らんに最も重要なリビングは天井を高くし、奥行きや広がり、明るさをどのように作るかは非常にこだわったところです。
また、旅行者は一般住宅と違いハードな使い方をするので、耐久性であったり、長期にわたって使用しても汚れが目立たない工夫もしています。
それと、マンションに住む方にとっては、生活の安心感やプライバシーを守れることも重要です。そこで、入口を宿泊者用とマンションの住人用に分け、お互いが顔を合わせないようにしました。

天内:建物内に宿泊施設があるということを、マンションを利用する方からもご理解いただけていますし、民泊が稼働してからも宿泊者の方とのトラブルやクレームは上がっていません。伊東さんが設計してくれた区分けが機能しているおかげだと思います。そういったリスクを抑える造りが最初からできるのも、新築ならではの強みです。

五十嵐:エントランスは、宿泊施設とマンションの調和を考え落ち着いた雰囲気にしつつも、レンガ調のタイルで北海道らしさを出すと共に高級感を演出、耐久性も備えています。限られた予算の中でも、演出として大切な部分は費用をかけてメリハリをつけて考えていきました。

宿泊施設と住人の入り口を分け安心して利用できるように

伊東:マンションに住む方の安心感は確保しつつ、他にない材料を使い個性のある造りになっているので、素敵なところに住んでいるという特別感があると思います。
どのような方が住むのか、家具のレイアウトはどう想定されるかなどをイメージし、外観やエントランスとの雰囲気をそろえつつ、インテリアには住む人の自由度を確保し楽しんで空間を作っていけるよう、作り込みすぎないことも意識しました。

天内:ゲストからの評価は大変高く、「感動した」という言葉をいただくことが多いです。一歩入ってみて想像以上に素敵な空間に喜び、連泊しても居心地よくストレスなく滞在できたという評価をいただいています。オープンしてから期間は短いですが、すでにリピートしてくださる方もいます。ここまで3人で突き詰めて作り込んできて良かったなと思いました。

伊東:ゲストが想像した通りなら「満足」になると思いますが、「感動」はそれを超えたということだと思いますので、私もとてもうれしく思います。

積み上げたものから、また次の新しい閃きへ
外壁には北海道らしいレンガをあしらって特別感を
これまでを振り返っての感想や思い、また今後も続くプロジェクトへの展望をお聞かせください。

伊東:五十嵐さんはこのプロジェクトを通じて知り合いました。同じ建築士で扱うものも近いですが、アプローチする方法が全然違って、とても刺激的でした。
今回は五十嵐さんが空間のアイデアを出し、私がかたちにするというプロセスで、どちらかに偏るとうまくいかないところですが、絶妙なバランスでシンクロしながら積み重ねていけたと思います。
やりとりをしながらアイデアを練り上げていく過程で、私との相性の良さも感じました。これからも一緒にやっていきたい仲間だと思っています。

五十嵐:伊東さんは、天内さんも仰る通り、誠実で的確。物のまとめ方が上手なところは自分にないところで、それぞれの個性を持ち寄ることで良い形で進められたと思います。
私が出したアイデアを伊東さんが的確に汲み取って実現してくれるので、自分が設計するならやらないことも甘えて提案したり(笑)、そこがまた良い方向に進んでいきました。そういったキャッチボールがとても面白かったですし、建築としてのレベルが上げられたと思います。

天内:振り返ってみて、本当によく建ったなと(笑)。国内に前例がないものを生み出した価値は大きいと思いますし、これだけの仕事ができる関係性はなかなか作れないと思います。
これから海外の旅行者が戻ってくれば、本来想定していた方たちに楽しんでいただける展開になるはずです。3人でまたノウハウを積み上げながら、Citson Gardenをまたさらに高めたものとして世に出していきましょう。

伊東:天内さんは、よくこのコンセプトを打ち上げてくれたと思います。この規模でこのグレードの建築物は、天内さんの高い理想と推進力があったからこそ実現できたものだと思います。
賃貸住宅の下のフロアに民泊がある、棟によっては1階に歯科医院があるというバリエーションを4棟経験したことで、5棟目はより精度を高めています。
Citson Gardenは量産ではなく、積み上げたノウハウの中から新しい価値を生み出していくものですので、また1棟1棟、深く考えながら挑んでいきたいと思います。

五十嵐:完成形が想像できない中、模索しながらやってきてこのような形になり、すごく達成感があります。チームの核となる天内さんは企画だけでなく設計の経験もあるので、知識を生かしてアイデアを出し、まとめてくれたことで良いチームになったと思います。 今後は、Citson Gardenのブランド色をキープしつつ、トレンドを追いすぎず1棟1棟の個性をどう出すかで頭がいっぱいになっています。一度泊まっていただいた方に、「他の棟はどんな感じだろう」と期待していただき、それに応えるものを生み出していきたいですね。

株式会社エフエー
北海道東区苗穂町3丁目4-20
TEL 011-302-3071
株式会社グリーンライトアソシエイツ
北海道札幌市中央区南6条西22丁目2-12 アーク22ビル2階
TEL 011-596-7212
https://igarashiatelier.com/
  • 文:細川美香(合同会社ハーヴェスト)
  • 対談写真:寺島博美(コトハ写)